安穏な光とは? 安穏な灯りとは?

安穏の家_図1

「安穏な空間」 その実現に「光」はとても重要な役割を果たしています。

そもそも「光」とは「影」の中にのみ存在しえます。
光と影の関係を考え、安穏を検討しました。

明暗の差が激しい場合から受ける印象は以下のような言葉で表現できます。

・ 明るい(暗い)
・ ビビッドな感じがする
・ 元気な感じがする
・ 緊張感がある
・ メリハリがある

などです。
それらの言葉は全て安穏に相反すると感じます。
安穏とはもっと緩やかな雰囲気の中あると感じ、光から影をグラデーションさせ、明暗の差を無くしました。

安穏の家_図2

直進性のある光は影を生みます。
つまり明るく感じます。

そうでなく影をグラデーションさせる為には、光を乱反射させる必要があります。
また、光を受け止める面も一定方向では無く、色々な方向を向いていたほうが影がハッキリしません。
そこで、素材はマットなテクスチャーのものを選択しました。

また、太陽光を直接部屋へ入れるのではなく、一度壁にあて間接的に部屋へ入れることで取入れる光を乱反射させました。

これらにより、光の表現を安穏に繋げていきました。

下の写真で、外にあるデッキチェアーの影に比べて、内部にあるセンターテーブルやイスの影がハッキリしていないことにお気付きになられますか?

これが光により狙った「安穏」の表現です。

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次ぎは灯りです。

リビングの灯りも同じように影をハッキリさせないようにと考えました。

但し、ダイニングやキッチンは影をハッキリさせるようにしました。
それは料理が美味しそうに見えるためです。
ダイニングの安穏な感じは色温度を2700K程度とすることにとどめ、料理を美味しく見せることを優先させました。

リビングに関してはコーニス照明により、壁からの反射光で部屋を照らすように照明計画をしました。

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建築の質

最も象徴的な出来事がありました。

エクリュのチラシなどをずっとお願いしている方(アートディレクター/グラフィックデザイナー)と「包容の家」のチラシについて打合せをしている時のことです。

ウッドデッキのお話をしていましたが、その方と話が食い違う点がありました。
グラフィックデザイナーの方はウッドデッキの仕上げはお施主様の選択通りイペ材で仕上げたと理解されたのですが、実はそうではなく、苦渋の選択でイペ材になったところが誤解の点でした。
(イペ材とは・・・南米産のハードウッドで、欧米では古くからボードウォーク・水辺デッキ・高級フローリング材として使用され、屋外でも30年以上もつと言われています。)

グラフィックデザイナーの方がお施主様が積極的にイペ材を選択されたと思われたのには、今までのエクリュのお客様の傾向は、メンテナンスがかかったとしても無垢材を選択されがちだったためです。

しかし、「包容の家」のお施主様はメンテナンスなどを考えると、本当はアルミ製の心材で木を模したものが第一希望でした。結果的には第二希望のイペ材となりました。

長期優良住宅や改正省エネ法など、最近一定の品質を示すための基準がつくられています。
低炭素住宅化が急務となっているからですが、それらの「質」のほとんどは機能性という建築の質のひとつに偏っていると感じます。

建築の質(品質)は5つの軸があると学生時代に教授から教わりました。
エクリュではその時に習ったとおりに5つの軸でお施主様のNEEDSを分析します。

5つの軸とは「社会性」「芸術性」「機能性」「経済性」「生産性」です。

「包容の家」は「機能性」が特に重要なファクターであったと思います。

棟配置は包容力のカタチ

「包容の家」は名前の語源ともなったその棟配置に最大の特徴があります。

先ほどお話したとおり、「機能性(性能)」はとても重要なファクターでした。
性能の中のひとつに機密性能があります(C値)。
C 値(相当隙間面積)とは、建物全体の総相当隙間面積を実質床面積で割ったもので、単位はc㎡/㎡で表されます。測定は実際に建てられた建物で気密測定機械 によって測定され、室内と外気の気圧差が9.8Pa(=1mmAq)時に、どれだけの空気が室内から外部に流出するのかを、住宅の床面積で割って算出しま す。

床面積に対して、外壁面積など表面積が増えてしまうコの字の棟配置は、当然にリスクが高くなります。

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上写真の積み木の表面積は、上部12+下部(床面積)12+側面14=合計38になります。

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それに対し上写真の積み木の表面積は、上部12+下部(床面積)12+側面26=合計50になり、最初のものからすると1.3倍以上の表面積になっています。
つまりリスクは1.3倍程度になります。

性能がとても重要なファクターである「包容の家」がコの字の棟配置を選択したのには、最も大切なことが棟配置にあるということだと思います。

この棟配置をご提案したのは、今回の敷地が東向きの土地だったことにあります。
一般的に今回の敷地に建物をレイアウトすると、きっと北側の隣地境界線に出来るだけ建物をよせて南側を広く空けます。
そうすることで、沢山光を取り込もうとします。
しかし、現在、南側の敷地は空地になっており、どんな建物が南側隣地に建つのかが解らず、プライベートを確保して且つリビングなどに沢山の光を落としこむにはコの字の棟配置が最適と思いご提案しました。

しかし、その意図は当然のこと、お施主様がコの字の棟配置を選択された理由はもっと他のところにあったのだと思います。

それは2世帯住宅であることに答えがありました。

お施主様には、家族がつながっていくニュアンスが、建物の中から感じ取れる必要性があったのだと思います。

打合せの時も、週末は2家族でご飯を食べるや姉夫婦が泊まりに来るなど、家族が集まるということをしきりに仰ってた印象があります。

家族が集まるイメージを、建物のイメージ(棟配置など)に表現できている必要性があったのだと思います。
家族を包み込む包容力のようなイメージです。

そのイメージを、真ん中のウッドデッキ(中庭)と和室(縁側風)で表現しました。
二家族が集まる場所です。

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カタチの意味

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天井が廊下をイメージさせています。
エリアを誘導しています。
しかし、スペースとしては全てLDに取り込まれており、広がりとして認識されます。

奥にあるFIX窓は跨ぎや垂れ壁があります。
あえてシンプルにしきらないことで、優しい雰囲気を出そうとしました。

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夜になると照明がよりエリア分けを明確にします。
天井の形状+灯りによるエリア(動線)の誘導をしています。

カタチには意味があり、意味からカタチになります。
おり上げ天井が欲しいとのご要望に、エクリュなりの意味を込めました。
そうしてカタチが生きてきます。

形状(ボリューム感)による暗示

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手前の壁の厚みは構造的に必要な壁圧ではなく、その空間に与えたい雰囲気に必要な厚みです。
安定感を出しています。

分厚い壁は空間に頼りがいのような雰囲気を与えてくれます。

奥の方に見えているキッチンカウンターも、柱・梁組みのアーチ型(ブラインドアーチ)になっているのも同様の意味があります。

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青空の切り取り方

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空を切り取って枠に納めるには、庇でつくるスカイラインはつや消しの黒っぽい方がいいです。

そうすればくっきり青空が切り取られます。

夕焼け空も綺麗に切り取れます。

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フローリングの貼り方向

穏景の家の床材はカバの無垢材(フローリング)です。
着色することなく無垢の風合いを活かした無色のオイルステインを塗装します。

通常、フローリングの貼り方向は、その部屋の長辺方向に貼ります。

根太という構造材が、基本的に部屋の短編方向に架かり、それに直行した方が安定性があったのがあったためだろうけど、最近は水平剛性を高めるため根太を使うことも少なくなった現在もその時の習慣?風習?を守り続けていることが多いです。

しかし穏景の家は、違います。

フローリングの貼り方向は、目線が向いて欲しい方向です。
それは、最初からお施主様が脳裏に描いた映像的イメージを、とても大切なファクターと感じていたからです。

目線の先にあるモノを考えて間取りや仕上げや照明計画などをしてきた結果です。

軒裏のその裏 (目線の誘導)

DSC_0003軒裏に貼られた耐水シナベニア。

美しい木目をみせています。

木目や目地は内側から外側へ向かっています。

そのことによって目線が外部へ誘導され、広がりを感じ取ることが出来ます。

DSC_0012軒裏ですが、耐火性能のためにケイカル板(けい酸カルシウム板)を貼ってから仕上に耐水シナベニアを貼っています。

化粧ケイカル板もあるのですが、コストがかかってしまいます。

そこで手間をかけています。

シナベニアの目地底にクラフト紙を挟みこんでいます。

そうすることでケイカル版の白色の目地底になることを防いでいます。

誰も気付かないかも知れないところにも、大工さんの一手間を加えています。

現場での打ち合わせ 2

現場での打ち合わせ2今日、打合せをさせていただきました。

左官屋さんは最初、かなり心配をされていました。

本当に綺麗にいくのか?

でも、お施主様とエクリュは、どんな風なイメージで、どんなカタチにしたいのかを心を込めてお話しすると、職人さんも「解った。じゃあ、考えよう!」と心強い言葉を言ってくれました。

そして一緒に考えました。

一般的大多数の人がしないことをするには、ある程度チャレンジが必要な時もあります。


職人さんも自分の仕事が悪いと思われたくないので、どうすれば綺麗に旨くいくのかを考えてくれます。

今日、みんなの知恵を絞って一定の方法を導き出しました。

後はやりながら改善を加えていくのみです。
ワクワクしてきました。

現場での打ち合わせ

明日は現場にて左官工事の打合せです。

何が一般的かは解りませんが、絶対数が多いものが一般的であるとすると、今回のお家のディテール(詳細の納まり)は一般的とは言えません。
(I’m homeや住宅特集など、建築雑誌では逆に一般的だったりする部分もあるのですが)

その為、馴染みの職人さんでも新たな考え方や納まりをする時は、お施主様と打合せをした内容をお話し、その温度を知っていただき、想いや方向性をご理解いただきます。
その上で、よりその想いをより理想的にカタチにする方法を一緒に検討します。

カタチのみにこだわり、職人さんの意見などを理解することなく無視をするようであっては、チームの力を最大限に引き出すことが出来ず、全くもったいないことになってしまいます。
全員の力を最大限引き出せてこそ、より良いカタチとして結晶化することが出来るのです。

実は今回も職人さんに新たなチャレンジをお願いする部分がいくつかあります。
景色の見せ方や形状のあり方などにこだわった結果です。

ご理解をいただけるのでしょうか?
それとも、もっといい方法が生み出されるのでしょうか?

想いを伝えてカタチにすることは、大変難しいことです。
人が多くなればなるほど、色々な意見や考えも出てきます。
だけど、人が多いからこそ知識やセンスなどの数も増えますし、総合力が高められると言うものです。
そして、そうやって意見を出し合って、より良いカタチを求めていくことはエネルギーが要りますが楽しいことでもあり、だからこそカタチになった時の喜びも一入です。

カタチは沢山の想いや考えを込めた方が、磨かれていくのだと僕は思います。