建った瞬間が一番美しい家で、本当にいいのでしょうか?
観葉植物は、買った時が一番美しい?

エクリュの事務所にある観葉植物(パキラ)は、創業した2005年に、亡き母の妹、つまり叔母がお祝いとして贈ってくれたものです。
気が付けば、もう21年以上。
創業以来、ずっと事務所に居続けてくれています。
この間、事務所には様々な観葉植物がありました。
でも、創業当時から今も残っているのは、このパキラだけです。
観葉植物は、買った時が一番美しい。
そんな印象を持たれている方も多いのではないでしょうか。
僕もそう思います。
枝は伸び、
樹形は崩れ、
葉のバランスも少しずつ変わっていく。
盆栽のように上手に剪定できれば良いのですが、なかなか思うようにはいきません。
それでも、このパキラだけは、不思議なくらい穏やかな姿を保ち続けています。
創業当時からの付き合いだから、僕が贔屓目に見ているだけなのかもしれません。
でも、毎日眺めていても飽きることなく癒されています。
14年ぶりに遊びに来た友人

先日、高校時代からの友人が、14年ぶりに我が家へ遊びに来てくれました。
「遊び心の家」が完成した時、お祝いに駆け付けてくれて以来、二度目の来訪です。
当時の思い出話をしながら家の中を見渡し、
彼が最初に口にした言葉は、
「新築の時と、変わらんな。」
でした。
もちろん、まったく同じではありません。
器は増えました。
家具も少しずつ入れ替わっています。
調度品も増えています。
暮らし方も、14年前とは少しずつ変わっています。
それでも、
家全体から受ける印象は、大きく変わらない。
むしろ、
時間を重ねるほどに、少しずつ雰囲気が良くなっている。
そんな印象を受けたそうです。
僕にとって、とても嬉しい言葉でした。
家も、観葉植物と同じなのかもしれません
ここで、ふと思いました。
もしかすると、
住まいも観葉植物と同じなのかもしれない。
建った瞬間が一番美しい家。
暮らし始めてから、少しずつ美しくなっていく家。
その違いは、一体どこにあるのでしょうか。
未だ家を建てたり、購入されたことのない方は、
「注文住宅なんだから、理想の暮らしが続くのは当たり前では?」
と思われるかもしれません。
僕もそう思います。
多くの時間と費用を掛けて建てる家です。
理想の暮らしが続かなければ、おかしい。
ところが現実は違います。
実際には、
家を建てた人の55.4%が、人を招くことができない状態で暮らし続けている。
という調査結果があります。
数年のうちに、
思い描いていた暮らしとは違う現実になってしまう。
これは決して珍しい話ではありません。
半数以上の方が経験している現実です。
この数字を見ると、
建物は完成したのに、
暮らしは完成しなかった。
そんな住まいが少なくないことが分かります。
建物が完成した日と、暮らしが完成する日は違う

家は完成します。
建築会社は、その日を「完成」と呼びます。
でも、
そこで完成するのは、
建物だけ
ではないでしょうか。
家具が入り、
食器が並び、
本棚に本が収まり、
日用品が置かれ、
季節の飾りが加わる。
ようやく、
その家らしい暮らしが始まります。
つまり、
建物が完成した日と、暮らしが完成する日は、本来同じではありません。
私は、この違いがとても大切だと思っています。
55.4%という数字が教えてくれること
家を建てた人の55.4%が、
人を招くことができない状態で暮らしている。
僕は、この数字を見るたびに思います。
これは、
住む人が悪いのでも、
片付けが苦手だからでもありません。
もちろん、
家族構成が変わったり、
子どもが成長したり、
暮らしが変化することも要因にはなるでしょう。
でも、
それだけで半数以上という数字になるとは思えません。
もっと大きな原因が、家を建てる時点にある。
僕はそう考えています。
完成したのは、本当に「住まい」なのでしょうか

住宅会社は、
建物が完成すると、
「完成しました。」
と、お引渡しをします。
もちろん、
建築としては完成しています。
しかし、
その状態を思い浮かべてみてください。
家具はありません。
食器もありません。
本もありません。
お気に入りの椅子も、
思い出の器も、
普段使っているゴミ箱もありません。
つまり、
暮らしが入っていない状態
です。
僕は、
その状態を「住まい」と呼ぶことに、
少し違和感があります。
その家具は、どこへ置きますか?

エクリュの打合せでは、
こんな質問をよくします。
「その家具は、どこへ置きますか?」
新しく買う家具ではありません。
今、お使いの家具です。
長年使ってきた食器棚。
譲り受けたチェスト。
お気に入りのソファー。
テレビボード。
ダイニングテーブル。
それらが、
どこへ置かれ、
どのように使われるのか。
そこから考え始めます。
なぜなら、
その家具たちは、
これまでの暮らしを支えてきた存在だからです。
建物ではなく、暮らしを設計する
収納は足りていますか?
ではありません。
何を収納しますか?
キッチンは広いですか?
ではありません。
どのように料理をされていますか?
リビングは何帖ですか?
ではありません。
どんな時間を過ごしたいですか?
エクリュでは、
設計の話をしているようで、
実は、
暮らしの話ばかりしています。
図面を描くためではありません。
図面の中へ、
暮らしを入れていくためです。
だから、完成した瞬間がゴールではない
建物だけを完成形としてしまうと、
完成した日が、
一番整っている状態になります。
でも、
そこへ暮らしが入り始めると、
少しずつ、
理想とのズレが生まれていきます。
一方で、
最初から暮らしが入ることを前提に考えていれば、
建物は、
暮らしを受け止める器になります。
完成した日がゴールではありません。
そこから、
少しずつ、
住まいが育っていく。
僕は、
その違いが、
55.4%という数字と、
大きく関係しているように思うのです。
だから、14年経っても変わらない

高校時代の友人が、
「新築の時と変わらんな。」
と言ってくれました。
でも、本当は変わっています。
器は増えました。
家具も少しずつ入れ替わっています。
調度品も増えています。
暮らし方も、14年前とは少しずつ変わっています。
それでも、
家全体から受ける印象は、大きく変わらない。
むしろ、
年月を重ねるほどに、
少しずつ味わいが深くなっている。
そんな印象だったそうです。
僕自身も、
その言葉を聞いて改めて思いました。
「建物」は古くなる。
でも、
「暮らし」は育つことができる。
その違いなのだと思います。
住まいは、暮らしと一緒に育っていく
エクリュのお施主様のお住まいは、
完成した瞬間をゴールとして計画していません。
暮らし始めてから、
少しずつ、その人らしい住まいになっていくことを前提にしています。
お気に入りの器が増える。
旅先で出会った一輪挿しが加わる。
子どもの成長とともに家具の使い方が変わる。
季節ごとの飾りが少しずつ増えていく。
そうした変化を受け入れながら、
住まい全体の雰囲気は崩れない。
それは偶然ではありません。
最初から、
暮らしが育つ余白
まで含めて計画しているからです。
86.6%という数字の意味
以前もご紹介しましたが、
2020年以降にエクリュで住まいづくりをされたお施主様のうち、
86.6%の方が、いつでも人を招くことができる状態で暮らしておられます。
もちろん、
残り13.4%は、
これから僕たちが改善していかなければならない課題です。
でも、
この数字が示しているのは、
「片付けが得意な人が集まった」
ということではありません。
建物ではなく、暮らしを完成形として計画した結果。
僕は、そのように受け止めています。
だから、
突然家の前を通りかかって、
インターフォンを押しても、
「どうぞ。」
と言っていただけるお住まいが多いのです。
これは、
新築時だけ整っている住まいとは、
少し違う価値なのではないでしょうか。
建築写真には写らないもの
建築の写真を見ると、
完成したばかりの美しい住まいが並びます。
家具も整い、
生活感もなく、
本当に美しい。
でも、
そこで暮らし始めて一年後。
五年後。
十年後。
その姿を見る機会は、ほとんどありません。
だからこそ僕は、
建築だけではなく、
暮らしが続いている姿
にも価値があると思っています。
エクリュのホームページでも、
できる限り実際に暮らしておられる様子をご紹介したいと考えているのは、そのためです。
住まいは、
建物だけでは完成しません。
暮らしが重なって、
初めて住まいになる。
僕は、そう考えています。
建った瞬間が、一番美しい家ではなく
創業の時にいただいたパキラは、
21年という時間を、
エクリュと共に過ごしてきました。
もちろん、
枝ぶりは変わりました。
葉の付き方も変わっています。
でも、
だからといって、
創業当時より魅力が失われたとは思いません。
むしろ、
時間を重ねたからこその存在感があります。
それは、
「時間」が価値を減らしたのではなく、育ててくれたから。
なのだと思います。
住まいも同じではないでしょうか。
建った瞬間だけ美しい家。
暮らし始めてから、少しずつ美しくなっていく家。
僕は後者でありたいと思っています。
完成するのは、建物ではなく暮らし
エクリュの打合せでは、
間取りだけを考えているわけではありません。
デザインだけを考えているわけでもありません。
収納量だけでもありません。
「その家具は、どこへ置きますか?」
「普段は、どんな暮らしをされていますか?」
「これから、どんな毎日を送りたいですか?」
そんな会話を積み重ねています。
それは、
図面を完成させるためではありません。
暮らしを完成へ近づけるためです。
建物は、
完成したその日から少しずつ古くなります。
でも、
暮らしは違います。
大切に使った器が増え、
お気に入りの家具に傷が刻まれ、
家族との思い出が重なり、
少しずつ深みを増していきます。
そうやって、
住まいは、
年月と共に、その人だけの場所になっていくのだと思います。
僕たちがつくりたいもの
「建った瞬間が一番美しい。」
そんな住まいを否定するつもりはありません。
でも、
僕たちエクリュが目指しているのは、
少し違います。
暮らし始めて五年後。
十年後。
二十年後。
「前より、今の方が好き。」
そう思っていただける住まいです。
だから、
僕たちは、
建物だけを設計しているのではありません。
理想の暮らしが続いていく環境
を考えています。
そのために、
今日も、
図面の前で暮らしの話をしています。
そして、
十年後、
二十年後、
「変わらんな。」
ではなく、
「前より、もっといい家になったね。」
そう言っていただける住まいを、
これからも一棟ずつ、
丁寧につくっていきたいと思っています。